2018年10月22日(月)、新橋フィルポートにて、10月度DNA定例会を開催しました。
株式会社日通総合研究所 取締役の大島弘明様を講師にお迎えして、「これからの物流業界のあり方」を講義いただきました。1961年(昭和36年)に創立した同社は物流コンサルティングのプロフェッショナル集団、大島氏はその長年の知識、経験を活かして、物流業界の動向を講演くださいました。
今後の物流業界の動向について。海外シフトや経済停滞により、日本の総貨物量は減少傾向にある、でもそれ以上に労働人口が減少することで、トラックドライバー不足には拍車がかかると予想されます。国の「血流」とも称される物流、輸送力が確保できなければ経済がますます停滞し、国の成長戦略にも支障が出てくる、そこで今、国も物流業界に対して動きを見せています。輸送力を維持するため、生産性の向上や働き方改革に着手しています。「自動隊列走行」も、その一つですが、これを経済産業省が主導しているというところが、そのポイントです。
もはや、物流業界の問題は、国の経済にかかわる問題と言えるでしょう。だからこそ、逆にいえば、物流業界が正しい主張や要求ができる時代になった、物流業界に追い風が吹いている、と大島氏は主張、この風を活かせば「明るい未来」が待っている、という言葉には、「ドライバー不足」やら「低賃金、長時間」やら、ネガティブなイメージが払拭できない物流業界にとって、非常に心強いものでした。
「追い風」の一例として。
先の北海道の地震の際、大学入試の試験問題の配送を請け負っていた運送会社がありました。そこで起きた例の地震、基本的には全て配送はお断りしました。地震の影響で信号機が故障、信号がないということは、安全な配送が保障できない、それはドライバーの安全をお保障できないからです。それでもなんとかお願いします、と粘った社もあったようですが、それでも徹底的にお断りした、と。経営者にとってみれば、今ここで受けておけば、今後の業績に~という「誘惑」は当然あるでしょう。それでも、ドライバーの安全を基準に、業務受託の可否を判断する、という正しい主張を貫きました。人の命より大事なものはない。こんな当たり前のことを当たり前に主張できない業界の仕組みが、つい最近まであったわけです。これは「時代が変わりつつある象徴ともいえる一例、物流事業者が正しい主張ができる環境になってきていると感じる」とのことでした。
また、物が運べなくなれば、困るのは物流事業者だけではない、荷主側も、業界の自助努力だけにまかせていたらドライバー不足は解消できないという見方をし始めています。大手メーカーT社の事例。物流事業者から値上げ交渉があり、ドライバーの環境改善という事情を考慮し、値上げに応じました。ただし、これには条件が一つ、「値上げした分をきちんとドライバーに還元したというエビデンスを出すこと」です。会社だけの利益にしてはならない、ということです。荷主さんの意識も徐々に変わりつつある、荷主さんにも積極的な交渉をしていきましょう、という力強いお言葉でした。
以下、会場からの意見。
・確かに(荷主である)メーカーさんには強く言えるようになった。一方で、メーカーのお客さんである流通業者にはまだ強く言えない現状が残る。物流事業者、荷主、流通の3社で解決していかないと、現状はまったく進まない。」
→大島氏「国もそこはわかっていて、まずは食品を切り口に対策を講じようとしている。一方で、スーパーや量販店にも不条理がたくさんある。周囲を固めていく策も必要。今後、発荷主さんの側で販売先にどういってもらうかを変えていく必要があるが、時間はかかるだろう」
・労働時間についても年間休日が100日を切ると、人がとにかく集まらない。かといって、物流は土曜日稼働が通常なので、そこが時間外の扱いになる。ドライバーの長時間労働対策も自助努力には限界がある、業界をあげて平日しか動かない、などの抜本的対策が必要。
→大島氏「おっしゃるとおり。時間外労働については国が決めたとおりきちんとやろうとすると、ドライバーから、もっと働けるところ、稼げるところを紹介してくれ、となる」
現場から国へのフィードバックが必要ですが、単純に「許容時間を延ばして」は通用しないようです。これももう少し時間がかかるでしょう。ただいずれにせよ、大島氏が「正しい主張をできる時代になった」「物流業界には追い風が吹いている」と終始一貫して主張されていたのには、希望を感じました。
続いて、一般社団法人フォレストック協会 理事長の松原 賢一郎様に、「グリーン物流」について講演いただきました。
地球温暖化対策として、二酸化炭素(CO2)削減が叫ばれて久しいですが、どう取り組めばよいかわからない、という企業もあると思います。実際、経済活動にはどうしてもCO2排出が伴います。それを、クレジットを購入することにより、事業で排出されるCO2を相殺する仕組み「グリーン物流2030(仮称)」を紹介いただきました。クレジット代金は一口5,000円で、森林保全の活動費として活用され、その森林がCO2を吸収する暫定量で排出量と相殺します。一口ごとに毎月1トンのCO2削減効果を告知可能、プロジェクト参加証明となる認定書や感謝状、また車両用のプロジェクトステッカーが付与され、協会ホームページでも企業名が公表されます。
「環境配慮」「環境貢献」も時代の流れを感じます。実質的に大切なことである一方、環境にきちんと配慮している会社というイメージ戦略も採用の上で有効でしょう。松原氏からも「人が会社を選ぶとき、今は、ホームページチェックは当たり前。採用の媒体にお金をかけるのではなく自社のHPに、また特に採用ページに力をいれなくてはいけない。短期的には結果は出にくいが中長期で考えたら自社HPの手入れは絶対に採用コストは安くなる」と主張、会場からも、「今は新卒者の親が必ずホームページをチェックして、その会社を判断する、という時代だから頷ける」「今の若者は、会社の業績が伸びるということではない社会貢献に興味を示す。ホームページでのアピールは有効」という意見多数でした。
ほか、会場からの意見。
・燃費走行のデータをとれるので、参加企業がエコドライブしたものを見える化することはできるだろうか。会社が参加する意義も見えるし、ドライバーさんのモチベーションにもつながる。
・トラックのステッカーも良いが、実際、いろいろ貼ってあるともう何がステータスなのかわかりにくくなることが懸念される
・助成が受けられるなど、わかりやすい特典があるともっとスムーズな参加が見込めるのでは
・運送業界のイメージアップにつながるとよい
・グリーン物流という名前はたくさん出ている。推進している省庁とうまく組めればもっと箔がつくだろう
・クールビス実施を掲げるかどうか、で採用アピールも全く異なってくる。作業服も再生PTからできているものでないと採用しない企業も増えている。荷主さんも「グリーンプロジェクトに加入している企業にものを運んでもらってますよ」というアピールができるようになれば尚よい
・トラックドライバー甲子園のように表彰するような場があると良い
ありがとうございました。
さて、次回のDNA定例会は11月27日(火)です。DNA定例会は会員限定の勉強会ですが、初回に限り、オブザーバー参加も可能です。ご興味ある方は事務局(dna.secretariat@gmail.com))までお問合せください。