2018年11月度 DNA定例会開催レポート

2018年11月27日(火)、東京貨物運送健康保険組合にて、11月度D.N.A定例会を開催しました。今回の講師は、D.N.A会員でもある拓殖大学商学部の角田光弘先生に、講義いただき、その後ディスカッションを行いました。

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1. ロジスティクス企業が自らの取り組みでできることについて

角田先生から「人が働くことの意義や動機」「金銭的処遇がモラルやモチベーションの向上につながりうるか」という問題提起がありました。経験を通じてより一層難易度の高い仕事をできるようになって、高い報酬を得られるのが通例である一方、同じドライバーでも、電車の運転手は、報酬や職位を含め、経験を加味した年功序列制度が適用されるのに対し、バスの運転手はそれが必ずしも適用されていない現状。また、月額報酬に評価制度を取り入れることの意義を改めて提示くださいました。

人が働く動機とは? 「その仕事自体が好き!」、その仕事自体が行動目的やモラルの源泉となる場合です。「その仕事以外に理由あり」、例えば家族を養うため、より良い生活をしたい、敬愛する上司の役に立ちたい!など。双方とも頷けますが、角田先生が問題視したのは「後ろ向きに外発的動機付けをされた状態」です。すなわち、自らの処遇に危機感を抱いた従業員が解雇などの不利益をこうむることを避けるべくその仕事に精励しようとすること。平たく言えば、自分の心や体を置き去りにして無理をしている状態です。これが過ぎると、心や体に変調をきたします。

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こういった現状を踏まえ、参加された運送会社さんではどのような報酬制度を取り入れているか、ディスカッションを行いました。

参加者さんの会社の報酬制度の一例:
「3年ほど前、歩合から能力、評価に基づく給与体系に切り替えた。4段階にランク分けして、現在は半年ごとに評価している。またボーナスとは別に、無事故の表彰金を出している。1日無事故だったら100円~200円で半年ごとに現金払い。今後検討しているのは、無事故の長期継続者がより報われるような形のもの。基本給ほぼ一本でやっているが、無事故の加算を追加している。ただ一方で残業稼ぎをする人が出てきてしまうので改善したい。技術が上がれば作業も早くなるので、標準運行時間を決めている。ただやりすぎると、事故を起こしたり事故を隠したりするケースも出てくるので、無事故とのバランスをみて評価して、基本給に加味している。その他、資格なども評価に反映することも検討いている。手当にはしたくない。理由は、過去に手当の種類がありすぎて、声が大きい人に給与が偏ってしまった。事故がない、コツコツやっている人が割に合わないのは避けたかった」

 頑張りが評価される評価制度をとりいれることで、ドライバーさんの動機付けを行う取り組みの一例です。会場からは「評価をする人たちのレベルあわせはどのようにするか?」という質問があり、「上長の評価に対して不満を持つドライバーもいるのは確か。ただ、先に管理職の評価制度を作ると、自分の評価ばかりでドライバーのことが見られなくなる。一方で、ドライバーに辞めてほしくないがために、評価をいいようにもっていく例も。課題」とのことでした。人がする評価なら、どんなに基準を作ってもその人物の知識や経験、倫理観は必ず入ります。かといって数値だけでは評価できない部分があり、そこを評価してあげたい、という思いが会社側にはある、ということでしょう。

 一方で、求人の際に、求人媒体の方のアドバイスで「仕事の内容より、会社のレクリエーションや社員旅行の写真を掲載して」成功している事例も共有されました。ほぼ仕事内容は掲載せずに(⁉)、写真も旅行の写真など楽しいもの、社長自ら楽しんでいる笑顔などを掲載、年齢層も幅広く応募があり、その後の定着率も上々とのこと。少子高齢化の波が押し寄せる課題は、この定例会でも何度か取り扱われています。人が、特に若年層がきてくれる求人のお決まりのパターンというのはないようですが、仕事や報酬制度の内容を明示する一方で、「表現」の大切さ、重要さを改めて認識させてくれる事例でした。文字で表現される以外の、会社のイメージに対して想像力がかきたてられるのは確かですし、今の日本になんとなく漂う閉塞感には、こういった「明るさ」は、実は思った以上に大切かつ必要とされているのかもしれません。

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(↑明るい会社の方)

 

2. ロジスティクス企業が荷主様により一層ご理解をいただくことについて

 角田先生から、下記のような問題提起がありました。

1. 荷物の到着時刻に妥当性はあるか?
2. 荷主と納入先に理解いただくために何が必要か?
3. 繁忙期と閑散期でプライステーブルが異なることはありか?
4. 注文の早期割引、直前のキャンセルの有償化はありか?
5. 荷主や納入先がやっていた業務を請け負える業務は?

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会場の意見:
・直前のキャンセルは、特に当日のキャンセル料は100%。
・キャンセル料は夕方4-5時にきたものは100ないしは70くらいはいただく。
・多重受けのような構造になっているので、伝達の悪さもある、実は午後でもよいのに午前必着となっていたりすることは多い。
・プライステーブルについては、スポットなら当たり前にある。引っ越し関係だと3月がピーク、など。
・正月3が日は値上げしてもらっており、ドライバーに還元している。会社にはいれない。
・業界を超えて、納期ありきは、問題だと思う。納期が無茶苦茶でできないサービスをできるといっていい加減なものを作っている。発売日が決まっているものなどは仕方ないが、それ以外で、果たしてそんなに急いでいる?というものが多い。トヨタ方式、在庫をもたなくなって、という流れのしわ寄せがきているのだろう
・荷主との交渉については、7-8年前からコツコツと交渉、スポットの仕事がほとんどなので、次に仕事をいただくときは、距離に応じた運賃表に基づき、この金額じゃないとできない、という提示をしている。それが実っているものもある、少しずつ全体の金額をあげる努力はしている。
・ここ1-2年はキャンセル料や待機料の交渉を始めている。デジタコなど、時間を把握できるものがあるので、実態を示すことができる。最終顧客に交渉してもらわないとできませんよ、という形で交渉している。
・値上げ交渉で気を付けているのは、大手には強気に交渉、同業者はそこまでシビアにやっていない。お互いの助け合いが必要だったりするので。
・デジタコのデータをもとに値段があわないことを提示しても、検討しないところもあれば、同感しても支払いには影響させてくれないところ、きちんと影響させてくれるところ、様々。ただ、データを出しても信じてもらえないなら、仕事を失う覚悟をもって交渉している。
・待機時間については、スポットで待たされたときは請求する。駐車料金なども発生するので。
・値上げ交渉のとき、自社の経理状況を透明化してすべて提示。利益が残らないことを明示して運賃をあげてもらったことあり。お客さんは単純に知らないだけで、細かいところを説明すれば納得してくれることもある。
・荷物を降ろす場所が5階の階段などとんでもない場所だったりすると追加料金をもらったりする。
・意外に納品先のお客さんは到着時刻にこだわってなかったりする。営業が何時に指定するか、サービスとして聞いてしまっているのだろう。
・業務の請負については、センターの納品でやらなくてよいことをやらされるケースあり。間配り=店舗ごとに商品を仕分けする仕事。センターのピッキング作業員が人手不足でやる人がいない。大手スーパーはその傾向も強い、ひどいところはラベル貼りまで。運ぶ時間より、作業している時間のほうが長かったりする。運賃としてもらっているものだから、作業費としてもらわないとあわない、という話をしているが。ひどいときは3時間。問題になっている。

荷主さんとの交渉については、前回の定例会でも講義いただきましたが、「適正労働には適正運賃を」。不当なことはきちんと交渉する一方で、先方に悪意はなく、細かい事情を知らないだけであるケースもあるようです。伝えるべきところは誠意をもって伝えて、ご理解いただけなければご縁がなかったということ。難しい課題である一方、スタンスはシンプルでよいのかもしれません。

角田先生、貴重な講義と意見交換、ありがとうございました。

さて、12月のD.N.A定例会はお休みです。次回開催は2019年1月15日(火)16時より新橋フィルポートにて。オブザーバー参加ご希望の方はDNA事務局までお知らせください。

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